洗脳

 

人間の感情の中で一番制御不能なものは嫉妬だと思うのです。嫉妬。しっと。妬み。羨望。この世で最も醜く汚く、美しく、人間味のあるそれ。どうやら私はそれが人一倍強いようで、あの人が少しでも私以外を見ていたりするとどうしようもなく汚らしい憎悪がたちまち湧き上がり、殺意にまで形を変えてしまいます。それを誤魔化すようにミンティアを口に投げ入れごりごりと噛み砕きます。すうっと喉を透き通るミントの味が鬱陶しく、またそれを誤魔化すように噛み砕く。いわば悪循環の始まりです。あの人は何でもないよだとか友達だからだとか聞いてもない言い訳を続け困ったように微笑み私の頭を撫でました。その大きく骨ばった手が私の心臓を鷲掴みにしてくれたらどれほどいいことか!しかしそんなこと出来るわけもなく(そもそも彼は優しいのでしてくれるわけがありません)、私はまたその甘い笑顔と手に陥落してしまうのです。いっそ嫌いになれたらどれほど楽なのでしょうか。いや、そんなこともない、嫌いになんてなれません。私があなたを嫌うなんて、地球が滅びようと天地がひっくり返ろうと砂漠に雪が降ろうと有り得ないのです。網膜に焼き付いたあなたの困ったその笑顔を食べてしまいたいくらい愛しているのですから!さあ行こうかと私の手を取ったあなたから大好きなそれが消えました。すうっと冷めたような瞳になり、途端に怒りを顕にします。何をそんなに怒っているのでしょうか。ああ、この腕の傷のことですか?これなら心配いりません。これはあなたのことが好きな証拠なのですから。え?やめろと言われてやめれたら苦労しませんよ、やだなあ。これが私の幸せなんです。私の愛の印なんですから邪魔しないでくださいね。幸せの定義なんて知りませんよ。信じることの何が悪いんですか?幸せか不幸かなんて私が決めることでしょう?私だって自由に飼われてみたいのです。どうして泣いているのですか?どうして逃げるのですか?おかしい?怖い?やだなあ、私はあなたのことが好きなだけなんですよ。あなたもきっとそうでしょう?そんな頭ごなしに怒鳴られても分かりません。穢らわしい正義を振りかざさないで、それは正義ではなく偏見と邪険なのです。目を覚ますのはそっちの方。気がつけば目の前は真っ赤に染まりけたましくサイレンの音が鳴り響くではないですか。ああ、ああ、もう。邪魔だなあ。